2013年8月19日月曜日

シトカ→ジュノー→スキャングウェイ



2013819日 シトカ→ジュノー→スキャングウェイ


アラスカ州立フェリーは素晴らしい交通機関だ。北米大陸のフィヨルド式になった北西海岸を縫うように運行し、船か飛行機でしかたどり着けない小さな街に寄港してゆく。価格も安くはないが、ローカルの人々の足なので高すぎはしない。リタイアした老夫婦や先住民の子連れ家族、バックパッカーなど様々な人が乗っており、船上でテントを張って寝ている人さえいる。高いツアーに参加をしなくても船上からイルカ、鯨、アザラシ、アシカ、ハクトウワシと様々な動物を見ることができる。島と大陸の間を進むので基本的に海は穏やかで、両側には万年雪に覆われた山々が迫ってくる。そのスケールはとても言葉では言い表せない。もちろん僕の写真技術では到底捉えることが出来ない。(あえて言うならSigur rosがよく似合う風景)北国の短い夏の終わりに差し掛かった今は乗客も少なく(元々ここに来る人はさほど多くない)、そんな大自然の中でも人々は気が向いた時に外に出たり、本を読んだりとそれぞれの時間を船内で過ごしている。こうした空気が何とも心地よい。今後日本で忙しい日々を過ごしたとしても、この時間は僕の心の底の方で通奏低音のように流れ続けるだろう。

シトカという街に初めに来た西洋人はロシア人だった。かつて日本の漁船が流れ着いたという島にもロシア語でヤポンスキー島という名前がつけられている。ダウンタウンは1時間もあれば回れてしまう程小さな街だが、山々と海に囲まれた場所なのでトレッキングやシーカヤックなど自然相手の遊びには事欠かない。宿のスタッフにどのトレイルがいいかと相談をしてみる。

「このトレイルが素晴らしいよ。深い本物の森だ」
「さっきその辺を散歩してたら、ものすごい数の鮭が遡上していたし、沢山のベリーが生っていたから熊が心配なんだけど・・・」
「ああ、めっちゃいるよ!みんな会いまくってるから気をつけてね。ベアスプレーは持ってるよね?それから熊に出会った時の対処もわかってるでしょ?」
ここでは熊を見かけることが日常茶飯事だというように彼は言った。
「スプレー持ってないんだ。買ってくるよ。熊への対処はなんとなく知ってはいるけど、まだ野生の熊には会ったことがないんだ。」
「スプレーはマストだよ。どうしても熊との距離が近づいてしまったら手を大きく上げて自分を大きく見せるんだよ。そしてゆっくり話しかけてね」

翌日ベアスプレーを持って山に入る。入って早々に大きな熊の足跡と糞がトレイルの真ん中に落ちていた。本当に沢山の熊がいるようだ。誰ともすれ違わないままどんどんと森の奥に入っていく。この森は僕が今まで経験したことがないほど豊かで深い森だった。降水量が多く湿度が高いため一面苔むしており、獣や魚、樹木など様々な匂いが立ち込めている。日本ではお目にかかれない針葉樹の大木が何本もそびえ立ち、その倒木から更に木が生え複雑で立体的な地形を作り出している。熊だろうか、ついさっき獣が捕らえたであろう新鮮な鮭が、川から30mも中に入った場所に落ちていた。きっとまだ近くにいる。ずっと見られている感覚。緊張した空気の中で、自分が静かに興奮し、心からこの時を楽しんでいることが分かる。結局この日は熊には遭遇せずに無事下山することができた。(後日遭遇)
翌日は宿で知り合ったアメリカ人の中学校教師と違う山を登る。自分の親よりも年上に見える彼が軽い感じで誘ってきたので、大した山ではないだろうと思っていたが、実際は一歩踏み外せば崖下に真っ逆さまというような岩山だった。後で聞くと彼はクライミングを長いことやっているとのこと。今はシアトルに住んでおり、娘さんがこの街でカヤックガイドをしているので会いに来たという。ちなみに息子さんはナショナルパークのレンジャーというアウトドア一家だ。初めに言ってくれたら覚悟はしたのに・・・。しかし、食べられるきのこや木の実を解説しながら口に入れ進む彼との登山はとても面白かった。彼の中ではこういった遊びが日常の中にある。後で会った娘さんもめちゃくちゃ綺麗でびっくりした。

その後もジュノー、スキャングウェイと色んな街に立ち寄りながら北上をしている。一日一日がとても濃い。初めて見る紅鮭の美しさ、氷河の青さなど野生動物や圧倒的な景色との遭遇、宿で急に始まるアコースティックライブ、誰かが作ってみんなにシェアしてくれるご飯など旅人たちとの時間、書き出すとキリがない。そしてそのどれもが何の前触れもなく起こるのだ。自分から求めるのではなく目の前で起こったことを楽しむといった感じ。皆がそういうスタンス。誰も急いでいない。ずっとこの土地に来たかった。ずっと憧れてきた。大切なことはそこに実際自分が立っているということ。本当に来てよかった。

※いいことばかり書いてますが、アラスカの物価はめちゃくちゃ高いです。それに合わせてインサイドパッセージは交通機関があまり発達してないので、タクシーを使わなければならない機会も度々出てきます。パンとパスタの繰り返しの生活・・・。


1 件のコメント:

  1. 目の前で起こったことを楽しむだけって感覚すごいよくわかります。

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