2013年8月12日月曜日

プリンス ルパート→ケチカン



2013812日 プリンス ルパート→ケチカン


目を覚ますとまだ5時前だというのに窓の外は明るくなっていた。だいぶ北上してきたようだ。霧に包まれた針葉樹林の中をバスは走っている。時々バスに驚いた鹿が森の中に逃げていくのが見える。バンクーバーを出てから既に24時間が経っていた。

ワシントン(USA)、ブリティッシュ・コロンビア(カナダ)、アラスカ(USA)3つの州にまたがったエリアには、入り組んだ湾と島々によって複雑で豊かな森と海の世界がある。そこには北西海岸インディアンと呼ばれる先住民の人々が遥か昔から暮らしており、僕はずっと彼らに惹きつけられてきた。
なぜ彼らに惹かれていたのか?学生時代に自分の祖先が山の民だったというところから、狩猟民に興味を持ち、東北のマタギ(猟師)文化や北海道のアイヌ民族について調べていた。そこから更に樺太、アリューシャン列島と続き北米大陸北西海岸の先住民にまで興味が広がっていった。太平洋を囲むこの一帯には衣服や装飾品、狩猟道具など具体的なモノの中に見られる共通性、そして自然との関係などの精神世界にも共通性があるように思えた。それから僕はずっとこの土地に憧れ続けてきた。だからこそ旅の最終目的地をこのエリアにしたのだ。

バスはやっとプリンス ルパートという街に到着した。シアトルやバンクーバーではほとんど見なかったネイティブの人々の顔が目立つ。早速宿にチェックインを済まし、この街の沖にあるハイダ・グアイ(旧名クイーンシャーロット諸島)へのアクセスを調べる。“ハイダ・グアイ”はその名の通り、ハイダ族の人々が暮らす島々である。北西海岸インディアンはトーテムポールに見られるようなかなり高い芸術文化を持っており、民族によってそれぞれ特徴がある。その中でも僕はこのハイダ族のモノが特に好きなのだ。また大好きな小説「20マイル四方で唯一のコーヒー豆(池澤夏樹著)」の舞台になっていることからも、この諸島にどうしても行ってみたかった。だが、調べてみるとその費用の高さに驚愕する。なんとか島に上陸できてもそこから僕が行きたい南部まではボートをチャーターしなければならず、今持っているお金を全て出しても行けるかどうかだ。うーん、とにかく島に立つことが大事だろうか・・・とも思ったが、散々悩んだ挙句この諸島に行くのは次回ということにした。せっかく行くのならば、満足のいく滞在にしたい。次はいつ来れるか分からないが、仕事を辞め貯金を全て使ってここに立っている今の自分を考えると、きっとまた来るだろうという気がした。

プリンスルパートから船で更に北上。国境を超え、ついにアラスカ州に入る。船は常に陸と島の間を縫うように進んでいく。イルカが併走し、上空にはハクトウワシも飛んでいる。運がいいと鯨も見られるそうだ。チリのアウストラルを思い出す。あそこも複雑に入り組んだ海岸だった。7時間後ケチカンという町に到着。それほど大きな街ではないが、大型フェリーが寄港するため、お土産物屋が並ぶ。しかし船が数時間寄るだけの街なのでホテルなどはほとんどなく、夜は無人の街のような静けさになる。何とも不思議な街だ。
到着の翌日トレッキングをする為に森に向かう。途中、橋から川を除いて驚いた。川が黒いのだ。よく見ると川底が全く見えないほど大量の鮭が産卵のために遡上していた。疲れ尽きた死骸がいくつも河原に転がっている・・・子孫を残すために必死に流れに向かっていく姿はこちらの感動を呼び、何時間でも見ていられそうだった。
針葉樹林の深い森は、雨量も多く毎朝深い霧に包まれるためか、辺り一面が苔の絨毯になっている。日本の森に近い匂いが立ち込め気持ちが落ち着いていく。この森には熊も生息しているので、時々すれ違う人々はみな猟銃を抱えていた。緊張感のある張り詰めた空気がより一層森を美しくしている。この街に滞在した4日間平均して6時間は森の中にいただろうか。ここは本当に豊かな土地だ。山の幸にも海の幸にも恵まれている。そんな豊かな土地だからこそ、人間は自然に対して敬意を持ち、けして採取しすぎず、すべての生物の循環が保たれるような関係を築いてきた。むしろ自分たちが循環の一部であることを感覚的に理解していた。自分たちは生かされているという感覚。マタギやアイヌの文化と北西海岸インディアンの中に見られる共通点はそこなのだろうと思う。世界中の様々な土地を旅をしてきて、改めて思うのは人が一から文化を作るのではなく、初めに土地ありきで文化が出来上がっていくということだ。

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