2013年5月8日水曜日

プエルト ナタレス




201358日 プエルト ナタレス


エル カラファテからバスで国境を超えチリへ入国し、プエルト ナタレスという町へ。エル カラファテは湖畔の町だったが、プエルト ナタレスは海に面した港町で、家々はどれも潮風にあたり寂れた風合いを出している。港町特有の外壁のカラフルさも相まって、街並みはかなり僕の好みの哀愁を帯びている。

前日からこの街に入っていた友人や、バスの中で出会った人達と皆でパイネ国立公園へ向う。パタゴニアは風の土地である。アルゼンチン側でも十分風は強かったが、チリ側はその比ではなかった。ここでは風を見ることが出来る。小さな湖が日本海のように波打ち、木々はほとんど斜めに生え、チリの国旗は今にも引きちぎれそうな勢いでたなびいている。また、風に触ることも出来る。身体の力を抜き斜めに倒れようとしても風に押されて倒れることはできないし、目をつむって手や顔に意識を集中すれば、自分の身体の上を風が移動していく感触がある。その強烈な風が大地を削り、水を動かす。今まで水や火が作り出した景色は山のように見てきたが、風が作り出した景色というのは初めてかもしれない。いや、どの土地でも風はその土地の形成に大きく関与しているだろうが、目に見えない分今まであまり意識してこなかったのだろう。

僕は全身の機能をフルに使ってこの土地を体験した。あらゆる感覚が活発に働き、この未体験ゾーンを必死に理解しようとするが、僕がこの絶対的な自然を把握できるわけはない。気がつくと逆に自分という意識上の境界がなくなり、大きな存在の一部になっている。人は誰しもあちら側に行く為の土地や術、道具を持っていると思うが、僕にとってここパタゴニアはまさにそういう土地であり、しかもなんの術も道具も必要とせず、ただここに立つだけで容易にあちら側に入ってしまう。なんとか両足で踏みとどまってはいるが、完全に風に身を委ねてしまえば、僕はあっという間に風に飛ばされ跡形もなくなってしまいそうだ。もし死に場所を選べるのなら、ここで死にたいとさえ思った。

パタゴニアで一番寂れており、何もすることがないと聞いていたプエルト ナタレスだったが、僕にとってはこの旅一番と言っていいほど落ち着ける場所で、出るタイミングを無くしそうだ。街を歩いていると野良犬がどこまでも付いて来て、まるで散歩をしているような気分になる。また海沿いにそれはかっこいいカフェがあり、友人と話をしたり、本を読んでいると時間を忘れてしまう。住民もみな気さくで優しい。パタゴニアは僕にとって本当に特別な土地になりそうだ。きっとまた訪れるだろう。日本にいながらにして、地球の裏側のこの土地に常に意識があるというのは面白いだろう。

※日本の山には電子音が合うなとよく思いますが、この土地のように壮大な自然の中では全く響いてきません。音が抜けていきそうだからでしょうか?パタゴニアでよく聴くのはBon IverFirst Aid Kit。バスでの長距離移動には音楽がマストです。

Bon Iver

◆First Aid Kit


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