2013年1月12日土曜日

ダハブ




2013112日 ダハブ


最後の太陽光を求めて訪れたダハブでは、到着翌日から寒波に見舞われてしまった。激しい風で街中の看板などが倒れ、海も前日の穏やかな表情とは打って変わり激しく波打っていた。海とは逆に目を移せば、砂漠の砂が舞い上がり、はっきりと見えていたはずの禿山はぼんやりと輪郭を確認できる程度だった。

前回のブログでも書いたが、この街はダイビングで有名な街である。世界の中でも比較的安くライセンスを取得できるということで、それ目当ての短期旅行者、長期旅行者が集まってくる。しかし、そんな街でダイビングをしないとなると、正直やることは全くない。海に惹かれないと言いつつも、一度ぐらいは入ってみようと思っていたのだが、この風と寒さでは入れない。結局僕はひたすら本を読んでいた。こんなところまで来て何をしているのかという後ろめたさもあるのだが、バタバタと激しく揺れる窓の音を聞きながら宿の中にいると、まるで暴風警報で学校が休みになったかのような感覚になり、それならばしょうがないと自分を納得させていた。11冊は読んでいただろうか。体はエジプトにいながら頭は、上海、東京、伊豆、京都、フィレンツェと次々に世界を旅していく。航空券の値段を比較したり、バスのチケットのために長蛇の列に並ぶ必要はない。たまに僕は体を移動させることより頭を移動させるほうが好きなのではないだろうかと思うほどだ。

結局一度も海に入ることができないまま、僕は移動の日を迎えた。朝から準備を進めて、あと1時間でバスが出発という時、最も恐れていたことが起こった。この問題は小学校の頃から常に僕につきまとい、ストレスを与え続ける。宿の方にいただいたガムを噛んでいた時である。グニャグニャと連続したリズムの中にガチャリという気持ち悪い音と石を噛んだ様な感触がした。もう確認するまでもなく何が起こったかわかった。歯だ。半年前、レタスの収穫中に同じようにガムを噛んでいたら、以前治療した歯が取れてしまい、親方に無理を言って歯医者に行ったことがあった。あの時、僕は歯医者に散々確認した。「これから長い時間旅に出ますので、しっかり治してください」と。しかし、起きたことはしょうがない。対処を考えないといけない。初めにどこで治療するかを考えた。これから向かう街ではなく、エジプトの首都カイロがいいのではないか。それとも次に行くトルコか。いやヨーロッパの方が安心できるかもしれない。一応宿の方に近所に歯医者があるかと聞くと、以前も滞在者が見てもらった歯医者があるという。抜けた状態でいるのはとにかくストレスが溜まるので、とりあえず一時的にここで治療をしてもらうことにする。さて海外の歯医者とはどんなものか?予約もなしに訪れると歯医者は軒先で友達と談笑していた。僕が抜けた歯を指差すと、彼は全てを理解しというふうに首を横に振り中に入れという。中には見慣れた歯医者の椅子とやたら若い女の子(歯科助手)がいた。口の中を確認した歯医者は、完全に治すなら何回か通う必要があるが、医療用の接着剤でとりあえず引っ付けることもできると言う。どこまでもつかは分からないが、とりあえず引っ付けてもらうことにした。女の子が接着剤を粉から作るのだが、医者に甘えた様子で「こうでしたっけ?」テヘッと可愛い笑顔で質問をする。医者もニヤニヤしながら「いい感じゃないか」というようなことを言う。大丈夫なのだろうかという僕の心配をよそに歯は無事くっついた。最後には数多くある口内の治療跡を二人で眺め、「いやーよく治療されてるね、日本は進んでるな」と感心していた。不安は残るがいい体験をしたと思う。

おかげでバスを逃してしまいもう1泊する羽目になったのだが、翌日は風もやみ比較的暖かかったので海に入ることができた。生きた珊瑚と見たこともないような魚たち。その造形の面白さ、また山とは違うそれぞれの距離感、そしてその間に生まれる緊張感に素直に感動してしまった。寒いので30分ほどしか海の中にいなかったのだが、なんでもやってみるものである。こうして大陸の上を少しずつ移動し、体で地球の大きさを把握したい思っていたが、地球のほとんどの部分はこの全く知らない海(内陸に育ちあまり海と接する機会がなかったため)が占めているのだ。そう考えると、この星の大きさというか深さを感じ恐ろしくなってしまった。

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