目が覚めると、無数の鳥の声が聞こえてきた。相変わらず体は汗でベトベトするし、腕や足には寝ている間に蚊に刺された痕が数箇所残っている。それでも前日とは違い今日は清々しい気分で起きることができた。ここはジャングルの中にある街トゥルム。朝食の席で、この辺でどこか面白い場所はないかとドイツ人の友人に聞いていると、横にいたアメリカ人が「COBA遺跡に行くといいよ。あそこは本当にアメージングな場所だから」と話に入ってきた。少し距離があり、移動費もかかるがせっかくなので行ってみることにする。バスから降り、辺りを見渡すと思っていたよりツーリスティックではなく他の遺跡よりも観光客が少ないように感じる。アメリカ人が言うには「COBAは他の遺跡と違い、あまり木を切っていないんだ。ジャングルの中の秘境という感じだよ」とのこと。確かに入場ゲートをくぐっても遺跡らしいものは見当たらず、どこもかしこも木ばかりだ。遺跡はかなり広範囲に点在していた。小さな建造物を見ながら奥へ奥へと進んでいく。木々が日陰を作ってくれているので、街の中よりもよっぽど涼しい。辺りにはまだ植物に覆われた発掘されていない建造物が無数にある。また色とりどりの蝶がたくさん飛んでいる。人間が奪った陣地を自然が少しずつ取り返しているかのようだ。30分ほど歩き続けると、視界が開けとてつもなく大きなマヤピラミッドが姿を表した。かなりの勾配の階段をほとんど四つん這いになりながら頂上を目指し登っていく。
2日前コスメル島から、空港で会ったドイツ人の友人が滞在しているトゥルムへと移動してきた。友人が宿泊している宿に行ってみると、若い欧米人だらけで、みな水着のみを着用し、酒を飲んで盛り上がっている。苦手なタイプの宿だ・・・とりあえず荷物を置いて外に出る。何をするでもなくブラブラとしているとあるアメリカ人が話しかけてきて、なんやかんやとするうちに僕は彼に騙されてお金を少し失った。他にもあまりの蚊の多さや、翌日に行った遺跡の期待はずれ具合で僕は完全に投げやりな気持ちになり、それを全て土地のせいにして、外で皆が盛り上がっている中ベッドで音楽を聞いていた。しかし、音楽を聴いていても気分が晴れるわけでもなくモヤモヤするばかり。それで寝る前に思ったのだ。もっと丁寧に毎日を送ろう。目の前で起こることをひとつひとつしっかりと拾っていこう。
息を切らしながらやっとの思いでピラミッドに登りきる。振り返って見るとどこまでもジャングルが広がっていた。来てよかった。全ては気の持ちようなのだ。昨日のままでは朝の鳥の声や、沢山の蝶、植物の飲み込まれた遺跡に気づくことができただろうか。多分出来なかっただろう。たぶんこの遺跡にも来ていなかった。
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